研修評価を左右する  一流講師が手を抜かない「座席配置」の工夫

2026.09.13 HumanCapital

人的資本経営が注目される今、研修は「投資対効果(エンゲージメント、生産性向上、組織風土の良質化)」を意識することが必要になってきました。 研修を企画する側としては、限られた予算の中で成果を出さなければならないというプレッシャーがあります。とはいえ、どう取り組むことが求められる成果につながるのか、相談相手もいない、と、負担を感じられている方も多いかもしれません。
そのような時は、まずは大きな成果を狙うのではなく、運営の小さな工夫から始めることで、確実に成果は向上します。

そこで、そのような方のために、まずは既存の研修を運営のちょっとした工夫を施すことで、研修の印象や理解度といった研修評価(ひいては研修後の実践につながる)を変えることができる(投資対効果の向上につながる)ポイントをお伝えしていきます。

私自身、同じ講師・同じ内容であっても、運営のちょっとした工夫で研修の満足度や実践度が大きく変わった経験を数多くしてきています。工夫するポイントは、人材育成担当になって日が浅い方でも貢献につながるものです。

その第1回となる今回は「座席の配置」です。

座席の配置はなぜ重要なのか?
先日、中堅リーダー層を対象とした研修を複数回に分けて実施しました。 グループ討議やワークが中心のプログラムだったため、すべて島型の配置で行う必要がありました。

ただ、会場の都合により、各回で座席配置が大きく異なることになりました。

  • 正面中央にスクリーンがあり、講師が中央(スクリーンの脇)に立つ回
  • スクリーンが複数あり、講師が会場の脇に立つ回

同じ講師、同じ内容、同じ対象層。 違うのは「座席配置」だけです。

ところが、全ての回が終わった後、アンケート結果を見て驚きました。
全体的に正面スクリーンの回と、複数スクリーンの回で、満足度・理解度・講師の印象に明らかな差が出ていたのです。

特に、講師の印象に関する自由記述欄の書き込みが顕著でした。
「経験談に共感できた」「熱意を感じた」「親身に関わってくれた」といった言葉が 正面スクリーンの回では多く書き込まれ、複数スクリーンの回ではコメント自体が少ない傾向が出ました。

もちろん、講師を中心にした配置が望ましいことは理解していました。 ですが、同じ講師が同じ内容を扱っても、ここまで評価が変わるとなると看過できません。

そこで、なぜこのような差が生まれたのかを振り返ってみると、 「講師と受講者のアイコンタクトが取れていたかどうか」が大きく影響していたことに気づきました。

正面スクリーンの回では、講師の視線が自然と受講者全体に届き、 受講者も講師の方向に身体を向けて座っていました。 一方、複数スクリーンの回では、受講者の身体の向きがバラバラになり、 講師の視線が届きにくい場面が多く見られました。

この「視線の通りやすさ」が、満足度や理解度に影響していたのです。

一流講師が「アイコンタクト」を大事にする理由
研修を準備いただく側からすると、事前案内~研修当日~事後フォローに至るまで、様々にお手間をおかけすることから、準備いただいた会場設営に手を入れることは、申し訳ない気持ちが先に立ちます。

しかし、長く研修講師として活躍し一定以上の評価を得ている講師は、会場に入った瞬間に、机の配置を確認し必要に応じて配置を見直します。その基準は
□講師とアイコンタクトが取りやすいか
□視線が他の人の背中と重ならず、見やすいように配置されているか
□真後ろの人と椅子がぶつからないか
などです。それを必ず行います。

この中でも「アイコンタクト」を特に重要視します。

では「アイコンタクト」は満足度や理解度の差にどうつながっているのでしょうか。
あらためて、心理学や非言語コミュニケーションの研究を調べてみたところ、今回の現象に合致する理論がいくつも見つかりました。
こうした現象は、単なる印象ではなく、心理学の研究とも一致していたのです。

その中でも特に示唆的だったものを整理したのが次の表です。

心理学・非言語コミュニケーションの理論 研修時の効果
アイコンタクトの効果
視線は「誠実さ」「自信」「関心」のシグナルになる
講師の視線が届く配置では、受講者が安心し、講師への信頼が高まる
Beebeの研究(1980年)
アイコンタクトの量だけで教師の「好感度」「信頼性」に関して印象が変わるかを調査。
結果は、アイコンタクトは「好感度」「信頼性(誠実さ)」「強いつながり(コミュニケーション)」を左右することが明らかになった
同じ講師・同じ内容でも、座席配置の違いで講師の印象は変わり、場の状態にも影響する
非言語コミュニケーション理論
印象形成の大部分は非言語要素で決まる
講師が中央に立つ配置は、受講者の身体が自然と講師方向に向き、印象が安定する
教育心理学・視線と注意
視線が合うと注意が向きやすく、記憶定着率が上がる
講師の視線が届かない配置では、受講者の集中が散漫になり、理解度が下がる
身体の向きの心理的効果
身体の向きは「関心の方向」を示す
スクリーンが複数ある配置では身体の向きが分散し、講師の話が届きにくくなる

つまり、座席配置の違いによる評価の差は、偶然ではなく、理論的にも説明できる現象だったのです。

まとめ
今回の出来事と理論を振り返ると、研修の効果は「内容」だけで決まるわけではなく、 座席配置という“場のデザイン”が、満足度や理解度を大きく左右することがわかります。

人的資本経営の文脈では、研修は「投資」として扱われます。 研修担当者ができる 運営のちょっとした工夫が研修の印象を大きく変え、実践を左右するのであれば、この点は取り組む価値があるのではないでしょうか。

「アイコンタクト」がしっかりとれる机の配置ポイントは、

  • 講師と受講者の視線が自然に交わる配置にすること
  • 受講者の身体の向きが講師方向に向くように整えること

この2点です。
これは、研修だけではなく、社内説明会、採用説明会、などでも活用できるポイントかもしれません。
まずは次の研修で、受講者の身体の向きと視線の通り方を一度だけ確認してみてください
それだけで場の空気が変わるはずです。小さな工夫の積み重ねが、人的資本経営で求められる「投資対効果」を静かに底上げしていきます。

次回は、講師の印象や場の一体感を左右するもうひとつの要素についてお伝えする予定です。

【セミナーのご案内】
Six Stars Consultingでは、人材戦略における要となる中堅層(30代)の育成施策の見直し、計画、企画をご検討中のご担当者様を対象としたセミナーをご用意しました。
▼10月5日(月)オンライン開催 参加費無料▼
30代のエンゲージメント向上に向けた育成支援3つのポイント
「成長実感」と「一体感」が積みあがる組織風土づくりに向けて
是非セミナーへのご参加をお待ちしております。