「やらされる育成」から脱却する─人材戦略再構築の鍵は「顧客」×「自社の強み」

2026.07.08 engagement

人的資本経営に要求される「ありたい人材像」(前回コラム「2026年・指針改定で求められる「自社らしい」人材像の描き方)が具体化できると、次に必要なのは、 経営戦略と既存の教育体系をつなぎながら、未来に向け、何に、どう、どの程度取り組んでいくかを示す「人材戦略」です。

人材戦略とは、目的地にたどり着くために、 どのルートを選び、どの手段を使い、どの装備(能力)を整えるかを具体化する「ロードマップづくり」 にあたります。
また、人材戦略を構築する際、「自社らしさ」を取り入れるかどうかは、社員の自走しやすさ、仲間内での相談しやすさ、必要な手段の講じやすさを左右します。これは、人的資本経営が制度対応ではなく、価値創造のための取り組みに移行していることへの対応にもつながります。

そこで今回は、「ありたい姿」を具現化するための人材戦略を再構築するフェーズに「自社らしさ」をどう取り入れるか、そのアプローチのポイントをご紹介します。

一般的な人材戦略づくりのプロセス
人的資本経営の文脈では、「経営戦略とありたい人材像のギャップを把握し、そのギャップから投資対象(WHO)を特定し、既存の教育と新たに必要な教育(WHAT)を整理し、教育体系(HOW)に組み込む」というプロセスが一般的です。
この流れは、人材戦略を構築するうえで重要な考え方です。しかし、これだけでは“自社らしさ”が十分に反映されないことがあります。

自社らしい未来像を具現化するために必要な視点
自社の未来像に向けて「ありたい姿」を具現化していくためには、もう一段深いアプローチを取り入れることが有効です。
それは、
• これまで自社を評価してくれている顧客の動向
• その顧客が特に自社を評価してくれている点(自社の強み)
をしっかり捉えたうえで、
• 未来に向けて強化すべき能力
• 未来に向けて新たに獲得すべき能力
を整理するという考え方です。

顧客の動向は「未来に必要な能力」を示す外側の要件
顧客の動向は、未来に向けて必要となる能力を示す重要な手がかりです。
例えば、
• 顧客が「体験価値」を求める➔ 共創力、越境経験、企画力が必要になる
• 顧客が「スピード」を求める➔ 意思決定力、アジャイル行動が必要になる
• 顧客が「AI活用」を求める   ➔  データリテラシー、AI協働力が必要になる
• 顧客が「専門性」を求める   ➔  技術人材や専門職の育成が不可欠になる

以上のことから、顧客の動向は「未来に向けて強化すべき能力」の要件といえます。

自社の強みは「継承すべき能力」を示す内側の要件
一方で、自社の強みは、これまで顧客に選ばれてきた理由であり、未来に向けても継承すべき価値です。
例えば、
• サントリーの「やってみなはれ」➔ 挑戦・自律・創造性
• 東京ガスの「誠意・尊重」➔ 顧客価値共創・信頼構築
• 製造業の「品質」 ➔ こだわり・改善力
• BtoB企業の「顧客密着」➔ 課題発見力・関係構築力

自社の強みは、「未来に向けて強化すべき能力」と並んで“継承すべき能力”として人材戦略の基盤になります。

顧客 × 強みで整理すると「未来に向けて強化すべき能力」が明確になる

「顧客の動向(外側の要件)× 自社の強み(内側の要件)」

この掛け合わせによって、未来に向けて強化すべき能力が自然に整理されます。
この整理は、一般的な「ギャップ分析 ➔ WHO・WHAT・HOW」よりも、自社らしさが強く反映されるプロセスになります。

このプロセスが組織にもたらす変化
このアプローチを取り入れることで、組織の中で次のような変化が生まれます。
• 身近にいる上司や先輩が“生きた手本”になる
• 自分たちの活動に自信が持てるようになる
• 次の成長に向かう原動力が生まれる
顧客に評価されてきた理由を理解し、自社の強みを「自分たちの価値」として認識することで、社員の内発的な力が引き出されます。また、「顧客動向に基づいた期待」が具体化された上で能力が示されるため、「学ぶ目的」を説明しやすくなります。
意識や行動が変化していくことで、自ずと顧客評価も高まることでしょう。こうした考え方を織り込んで人材戦略を構築することで、新たな学習機会に対しても意欲を持って取り組める土台が形成されます。

まとめ:人材戦略を構築する過程で「顧客の変化」と「自社の強み」を掛け合わせる真の価値
一般的な人材戦略の構築プロセスは重要ですが、自社らしい未来像を具現化するためには、顧客の動向と自社の強みを起点にした整理が不可欠です。
この視点を取り入れることで、人材戦略は単なる育成目標や計画ではなく、自社の価値を未来につなぐ「価値創造のロードマップ」へと進化します。

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