「ワイングラス型組織」再生の一手となる「転職申し出」への対応

2026.07.27 HumanCapital

環境変化が加速し、キャリアの選択肢がかつてないほど広がっています。
そうした環境を活かし自身のキャリアを長期的に見据え、組織に一定の功績を残し、良好な関係を維持した上で離職するのであれば、それは成熟したステップアップであり、組織としては辛くとも応援すべき選択です。

しかし、ワイングラス型組織の30代前後の離職理由を見てみると、次のような“環境要因”が多く見られます。

  • 上司や先輩との人間関係がよくない
  • 自分の役割に不満(やりたい仕事ができない、向いていない、将来が見えない)
  • 待遇に不満

こうした理由で離職を決めるケースが増えています。
実はこれは、組織にとっても、本人にとっても損な選択であることが大半です。

そこで今回は、こうした環境要因を主な理由とし、長期的なキャリア視点や転職後の適応負荷を織り込まずに行われる離職を、「未成熟な離職」として捉え、この離職に向き合うことが、当人と組織の成熟を促す可能性についてお伝えします。

▼未成熟な離職が生む「適応負荷」と「キャリア停滞リスク」
環境要因だけで離職した人のその後を見ると、次の負荷が必ず発生します。

  • 新しい業務を覚える負荷
  • 組織文化を読み解く負荷
  • 人間関係を構築する負荷

この“適応負荷”を織り込まず転職すると、本人の能力が十分に発揮できない期間が生まれ、自己効力感と自己肯定感が低下します。その結果、「こんなはずではなかった」「この会社も合わないのかも」と、再び転職を繰り返すループに入ってしまいます。

▼30代前半に本来取り組むべきことは「リーダーとしての土台」づくり
30代前半〜半ばは、本来リーダーとしての土台を形成する最適な時期です。

  • 多様な価値観のメンバーと協働し成果をあげる
  • 40代で求められる経営的な視座・視野を養う
  • 広い範囲で問題意識をもち、判断の幅と精度を高める

しかし、未成熟な理由による転職は、転職から一定期間の適応負荷に対応することに終始し、リーダーシップの土台形成の機会を逸します。

▼人的資本経営が求める「持続可能性」とは、成熟への導きである
人的資本経営可視化指針は、採用・育成・配置・評価・エンゲージメントを一体で捉えることを求めています。
その本質は、短期の離職防止ではなく、個人が長期にわたり成長し続けられるよう、モノの見方・判断の幅・役割理解といったキャリアの成熟を導いていくことにあります。

成熟とは、

  • 活動の幅が広がり関わる人が変わる
  • 見方が広がる
  • 判断の幅が広がる
  • キャリアの意味づけが変わる
  • 自分の役割を主体的に捉えられる

という状態です。
そして、個人の成熟が組織の成長につながり、組織の成長が個人の成長を支えるという双方向の循環構造が生まれます。
これこそが、人的資本経営が本質的に求めている「持続可能性」です。

実は未成熟な離職は、狭い範囲での人間関係の中で、見方の幅が狭いことが原因であることが多く、当人の話を聴くことや教育体系が補強されていれば、踏みとどまれるケースが非常に多いのです。

そこで今回は、当人の話をどう聴くことがよりよい方向を導くことになるか、という点に焦点をあてます。

▼離職希望者との対話は「人的資本経営」の実践
人事や育成担当が離職希望者と対話することは、単なる引き止めではありません。

  • 人間関係の不満は具体的に何か
  • 役割不満の背景にある“本当のありたい姿”は何か
  • 待遇不満はどのような期待から生じているのか
  • 離職後の適応負荷を織り込めているか

これらを丁寧に確認し、必要であれば「別の見方」を示唆し、本人の受けとめや捉え方、時に誤認識をとくことは、人的資本経営が求める成熟支援そのものです。
この対話によって、本人はキャリア停滞リスクを回避でき、組織は人材流出を防ぎ、同時に改善すべき構造課題を把握できる…という双方にとって大きな価値が生まれます。

▼離職理由は「市場トレンドの鏡」であり、組織改善のヒントである
離職理由に挙がる不満の多くは、個人の問題ではなく市場の価値観の変化(働き方の柔軟性、キャリアの透明性、役割期待の明確さ、評価の納得感など)を反映しています。
これらは、人的資本の文脈で言えば組織が改善すべき構造的課題であり、離職希望者との対話は、その課題を把握する絶好の機会といえるのです。

▼まとめ▼
人的資本の視点で「未成熟な離職」を扱うことが、ワイングラス型組織の再生につながる

  • 成熟したステップアップは応援すべき
  • 未成熟な離職は、対話や教育体系の補強で踏みとどまれる
  • 人的資本経営の本質は「持続可能性」
  • その第一歩は、キャリアの成熟/未成熟を見極めること
  • 離職希望者との対話は、人的資本の実践であり、組織改善の起点になる

「転職が当たり前」の時代だからこそ、転職後のキャリア停滞リスクを踏まえた対話を行うことが、ワイングラス型組織の軸を太くする最初の一手になるのではないでしょうか。

次回は、離職を予防しリーダーを育てる教育体系に焦点を当てます。

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